分子標的薬

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分子標的薬とは

  • 分子標的薬はがんに特異的、あるいは正常細胞に比べて過剰に発現する分子を標的にした薬物である。
  • がんの種類によって標的となる分子は異なり同じ種類のがんであっても有効な分子標的薬は異なる場合があたる。
  • 特定の分子の機能を阻害するため、その分子を発現するがんにのみ有効である。がんの種類によって有効な薬が異なる。
  • 分子標的薬が有効ながんかどうかは、バイオマーカーによって予測する。
  • がん細胞の増殖に重要な標的分子(ドライバー遺伝子産物)であるほど分子標的薬の効果が高い。
  • がん細胞自体が発現する分子を標的とするものだけでなく、血管や免疫細胞など周辺組織が発現する分子を標的とするものある。

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分子標的薬の分類 抗体薬(高分子型) 小分子薬(低分子型)
EGFR(HER1) 抗EGFR抗体薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
HER2 抗HER2抗体薬 HER2チロシンキナーゼ阻害薬
VEGF
(血管新生因子)
抗VEGF抗体薬抗
VEGFR2抗体薬
VEGFチロシンキナーゼ阻害薬
(多標的阻害薬)
その他の
細胞膜受容体
FLT3阻害薬 FGFR阻害薬
MET阻害薬 RET阻害薬
チロシンキナーゼ
(非受容体型)
BCRーABL阻害薬 ALK阻害薬
TRK阻害薬 BTK阻害薬
JAK阻害薬
セリン・
スレオニンキナーゼ
mTOR阻害薬 BRAF阻害薬
MEK阻害薬 CDK4/6阻害薬
細胞表面抗原 抗CD20抗体薬 抗CD30抗体薬
抗CD33抗体薬 抗CD52抗体薬
抗CCR4抗体薬
DNA修復機構 PARP阻害薬
エピジェネティック修飾 DNMT阻害薬 HDAC阻害薬
プロティアソーム プロティアソーム阻害薬
アポトーシス経路 BCL2阻害薬
免疫チェック
ポイント
抗PD-1抗体薬 抗PD-L1抗体薬
抗CTLA-4抗体薬
概要 特定の分子(抗原)に対するモノクロナール抗体 分子量の小さい化学物質
作用部位 細胞外、細胞表面で作用(高分子であるために細胞膜は通過しない) 細胞内で作用
(低分子であるために細胞膜を通過しやすい)
作用機序 受容体活性化阻害
抗体依存性細胞障害(ADCC)
補体依存性細胞障害(CDC)
他の抗がん薬・放射性物質の運搬(DDS)
多くは酵素阻害複数の分子を標的とするものがある(特異性がやや低い)
作用持続時間 長い 短い(12-24時間)
主な投与法 注射・間欠投与(1~3週間に1回) 経口、毎日投与(1日1回以上)

分子標的薬の作用部位

分子標的薬の副作用の発現機序=正常細胞も標的分子を発現

  • 分子標的薬は標的となる分子を発現している細胞にだけに作用する。
  • このため、標的分子を発現していない正常細胞は影響を受けない(がん細胞に特異的に発現する分子を標的にすれば副作用は出現しにくくなる)

副作用の発現(on-Target toxicity)

  • 正常細胞ががん細胞と同じ標的分子を発現していると正常細胞にも分子標的薬の作用を受け副作用が出現する。
  • EGFRは皮膚組織に発現
  • HER2は心筋に発現
  • CD20はB細胞に発現
  • 上記のような分子標的薬が本来標的としていた分子を正常細胞が発現しているために出現する副作用をon target toxicityという
  • 一方、本来の標的分子とは直接関係なく出現する副作用をoff target toxicityといいinfusion reactionや肝機能障害などがある。
  • On target toxicityの重症度が高い例ほど抗腫瘍効果も高いことが知られている。
  • 細胞障害性抗ガン薬は作用機序は様々ですが、細胞分裂という増殖プロセス自体を障害することは同様です。細胞分裂が盛んな正常細胞での副作用が出現しやすいということは共通しています。(骨髄抑制、消化管障害、脱毛など)一方で分子標的薬は、標的とする分子によって多彩な副作用が」出現することが特徴です。
  • Infusion reaction抗体薬投与に伴って起こる副作用の一つですが、急性輸注反応(注入に伴う反応)とも呼ばれる。
  • 発生機序は明らかではありませんが、サイトカイン放出が関連していると考えられています。(アナフィラキシーのようなⅠ型アレルギーとは異なると考えられています。)
軽症

・発熱 ・悪寒 ・悪心
・嘔吐 ・頭痛 ・めまい
・咳嗽 ・発疹

重症

・血圧低下 ・呼吸困難 
・気管支ケイレン ・血管浮腫 など

予防法

抗ヒスタミン薬
(クロルフェニラミンなど)
副腎皮質ステロイド (デキサメタゾン)

投与速度の調節:投与速度を遅くする

主な承認済分子標的薬(2022年6月)

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分類 一般名 適応 バイオマーカー 主な副作用
抗EGFR抗体薬 セツキシマブ

大腸がん
頭頚部がん
(セツキシマブのみ)

肺扁平上皮がん

RAS遺伝子異常なし
(結腸・直腸がん)

Infusion reaction
皮膚障害
間質性肺炎
低Mg血症
下痢
血栓塞栓症

パニツムマブ
ネシツムマブ
EGFR
チロシンキナーゼ
阻害薬
第一世代 ゲフェチニブ 非小細胞肺がん
膵がん
(エルロチニブ)

EGFR遺伝子の変異あり
(非小細胞肺がん)

皮膚障害
下痢
肝機能障害
間質性肺炎
結膜炎などの
眼障害
エルロチニブ
第二世代 アファチニブ
ダコミチニブ
第三世代 オシメルチニブ
抗HER2抗体薬 トラスツマブ
べルツズマブ
トラスツマブエムタンシン
トラスツマブデルクステカン
乳がん
胃がん
(トラスツマブと
トラスツマブデルクステカン)

HER2
(過剰発現例で有効)

Infusion reaction
心毒性
間質性肺炎
血球減少
肝機能障害
皮膚障害
下痢
手足症候群
肝機能障害
HER2
チロシンキナーゼ
阻害薬
ラパチニブ 乳がん

HER2は心筋細胞に多く発現しているために心毒性がある。

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分類 一般名 主な標的 非小細

肺がん
大腸

がん
肝がん 腎細胞

がん
甲状腺

がん
その他
抗VEGF
抗体薬
ベバシズマブ

VEGF

 

乳がん
子宮がん
卵巣がん
脳腫瘍
VEGF
阻害薬
アフリベルセプトβ
抗VEGFR2
抗体薬
ラムシルマブ VEGFR2 胃がん
VEGF
チロシン
キナーゼ阻害薬
(多標的
阻害薬)
ソラフェニブ

VEGFFR
KIT,PDGFR,
RET,FLT3
EGFR,MET
AXL,RAF,
CSF1R、TIE2、

スニチニブ GST
膵神経内分泌腫瘍
レゴラフェニブ GIST
レンバチニブ 胸腺がん
パゾパニブ 悪性軟部腫瘍
アキシチニブ
パンデタニブ
カボザンチニブ

非受容体チロシンキナーゼ阻害薬

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分類 一般名 主な適応疾患 バイオマーカー 主な副作用
BCR-ABL
阻害薬
イマチニブ GIST KIT(CD117陽性)

骨髄抑制
肝機能障害
悪心・嘔吐
発疹
体液貯留
血糖値上昇
QT延長
肺高血圧症
下痢

ニロチニブ 白血病 Ph染色体陽性
ダサチニブ
ボスチニブ
ボナチニブ
ALK
阻害薬
クリゾチニブ 非小細胞肺がん ROS1融合遺伝子陽性 間質性肺炎
肝機能障害
悪心・嘔吐
浮腫
視覚障害
味覚異常
下痢
CK上昇
抹消神経障害
高コレステロール血症
アレクチニブ ALK融合遺伝子陽性
セリチニブ
ブリグチニブ
ロルラチニブ
JAK
阻害薬
ルキソリチニブ 骨髄線維症
真正赤血球増加症
骨髄抑制
貧血
出血
感染症
肝機能障害
TRK
阻害薬
エヌトレクチニブ 非小細胞肺がん ROS1融合遺伝子陽性 味覚異常
発疹
悪心
下痢
骨髄抑制
めまい
ラロトレクチニブ 各種の固形がん NTRK融合遺伝子陽性
BTK
阻害薬
イブルチニブ 悪性リンパ種 骨髄抑制
不整脈
筋肉痛
下痢
アカラブルチニブ 白血病
チラブルチニブ 悪性リンパ種
原発性
マクログロブリン血症

セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬

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分類 一般名 主な適応 バイオマーカー 主な副作用
mTOR
阻害薬
テムシロリムス 腎がん 口内炎
高血糖
脂質異常症
免疫抑制
間質性肺炎
エベロリムス 腎がん
乳がん
神経内分泌腫瘍
BRAF
阻害薬
ベムラフェニブ 悪性黒色腫 BRAF遺伝子変異陽性 皮疹
関節痛
筋肉痛
眼障害
悪心
嘔吐
下痢
肝機能障害
QT延長
ダブラフェニブ 悪性黒色腫
非小細胞肺がん
エンコラフェニブ 悪性黒色腫
大腸がん
MEK
阻害薬
トラメチニブ 悪性黒色腫
非小細胞肺がん
皮疹
下痢
疲労
末梢性浮腫
心機能低下
眼障害
ビニメチニブ 悪性黒色腫
大腸がん
CDK4/6
阻害薬
パルボシクリブ 乳がん ホルモン受容体陽性
かつ
HER2陰性
骨髄抑制
皮疹
口内炎
悪心
嘔吐
下痢
アベマシクリブ

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標的 分類 一般名 主な適応 バイオマーカー 主な副作用
DNA修復機構 PARP
阻害薬
オラパリブ 卵巣がん
乳がん
前立腺がん
膵がん
BRCA遺伝子
変異陽性
骨髄抑制
悪心
嘔吐
下痢
間質性肺炎
ニラパリブ 卵巣がん 相同組み換え
修復欠損
エピジュネティック
修飾
DNMT
阻害薬
アザシチジン 骨髄異形成症候群
急性骨髄性白血病
骨髄抑制
悪心
嘔吐
下痢
倦怠感
HDAC
阻害薬
ボリノスタット 悪性リンパ腫 血小板減少
貧血
悪心
嘔吐
下痢
倦怠感
ロミデプシン
パノビノスタット 多発性骨髄腫
プロテアソーム プロテアソーム
阻害薬
ボルテゾミブ 多発性骨髄腫 間質性肺炎
末梢神経障害
カルフィルゾミブ
イキサゾミブ
アポトーシス経路 BCL-2
阻害薬
ベネトクラクス 白血病 骨髄抑制
下痢
悪心
嘔吐
腫瘍崩壊症候群

バイオマーカー

  • 治療効果におけるバイオマーカーとは治療効果や安全性を予測する指標となるものである。
  • 治療効果を予測するものとしてがん細胞の遺伝子発現量、遺伝子変異や染色体転座があります。
  • 治療の安全性を予測するものとして正常細胞における薬物代謝酵素の遺伝子多型の調査
  • バイオマーカーは病理組織学的検査や遺伝子検査で測定されます。

コンパニオン診断

  • コンパニオン診断とは特定の治療(主に分子標的薬)の適応を判断するためにバイオマーカーを測定します。

  • コンパニオン診断は多くの医療施設で実施できます。
  • がん遺伝子パネル検査では、100~300個ものがん関連遺伝子を包括的に検査・解析(ゲノムプロファイリング)することで患者さんに最も適した治療を選択することを目的にしています。
  • 現時点ではすべてのがん患者さんにどの医療施設でも行えるわけではなく、効果的な標準治療が確立されていないがんや標準治療を終えた患者さん(終える見込みも含む)に対して、がんゲノム医療中核拠点病院などに限られた施設のみで行える状況であり、まだまだ個別化医療は身近なものであるとは言えません。

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※標準治療では制限のある遺伝子解析を自由診療で受け付けています。

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表参道総合医療クリニックでは分子標的薬は行っておりません。
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